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大阪地方裁判所 昭和23年(行)76号 判決

原告

小池源治

外一名

被告

萱野村農地委員會

被告

主文

原告等の訴を却下する。

訴訟費用は、原告等の負擔とする。

請求の趣旨

被告委員會が昭和二十二年七月二十三日附を以て別紙物件表記載の農地についてなした農地買收計畫は被告委員會及び被告國に付之を取消す。訴訟費用は被告等の負擔とす。

事實

原告兩名訴訟代理人は、「別紙物件表記載の農地は元荒廢したみかん畑であつたが原告兩名が昭和三年頃共同で之を買入れて開墾し爾來自ら槇、梅等の苗木を育成し現在同地上には千本餘の植樹が存在する原告等共有の自作地であつて、自作農創設特別措置法(以下自作法と略稱する)に基いて買收さるべき農地に該當しないところ、被告委員會は之を自作地でないとして、昭和二十二年七月二十三日其の買收計畫を定め之に對する原告等の異議申立を却下したので、原告兩名は大阪府農地委員會に對して訴願したが、昭和二十三年二月十七日同委員會から、昭和二十二年九月十九日附を以て右訴願を棄却する旨の裁決書を受け取り裁決のあつたことを知つた。併し右買收計畫は前記理由で違法であるから之が取消を求める爲本訴に及んだのである」と述べ、

被告委員會の主張に對しては「(一)本件農地の買收處分は自作法の改正法(昭和二十二年法律第二百四十一號)施行前になされ原告等が之を知つたのは同法施行後で、しかも處分があつてから二箇月以上經過後であつて、右改正法附則第七條第三項は此の樣な場合、同法第四十七條の二及び同法附則第七條第一、二項の規定に拘らず、昭和二十三年法律第七十五號第八條を適用する旨規定しているから、原告等が右處分のあつたことを知つた日から同條所定の六箇所以内に提起した本訴は適法である。(二)訴外印藤篤郞が昭和二十一年三月頃本件農地の内拔木の儘苗木の植付をして居ない約三十坪に付芋を植付けていたことはあるが、右は原告等が同人に本件農地に關する公租公課の納入事務及び植木の盗難監視を依賴して居た關係から好意的に一時無償で使用させたに過ぎないもので、其の他の主張事實は總て否認する」と陳述し、

立證として甲第一號證を提出した。

被告國の指定代表者は「原告等の訴を却下する。訴訟費用は原告等の負擔とする。」との判決を求め、答辯として「自作法による農地買收處分は市町村農地委員會の買收計畫公告に始まり都道府縣知事の買收令書交付に終る一連の行政行爲の集合で、前後相關聯する各行政行爲のいづれかが闕缺すれば買收處分は不存在若くは効力を生じないのであつて、しかも此等の行政行爲は市町村乃至都道府縣農地委員會或は都道府縣知事の權限事項であるから、右買收處分行爲のいずれかの取消を求める訴は當該處分をした行政廳を被告として之を提起すべきで、此の事は自作法第十四條と第四十七條の二の規定の比較考察及び行政事件訴訟特例法が行政事件の訴は處分をした行政廳を被告とすべきことを規定してゐることによつて明かである。仍つて國を被告とする本訴請求は不適法として却下すべきである」と述べ、

被告委員會の訴訟代理人は(一)本案前の答辯として「原告等の訴を却下する、訴訟費用は原告等の負擔とする」との判決を求め、その理由としで「原告兩名は昭和二十三年二月十七日大阪府農地委員會から訴願棄却の裁決書を受領し、裁決のあつたことを知つたのであるから自作法第四十七條の二の規定によつて同日から一箇月以内に本訴を提起すべきに拘らず右期間を徒過して同年四月二十六日之を提起したから本訴は不適法として却下すべきである。自作法附期第七條第三項は原告主張のような期間延長を認めた規定ではなく、自作法の改正法施行前に同法による行政廳の處分のあつたことを知つた場合、其の取消又は變更を求める訴に付て同條第一、二項所定の期間前に昭和二十二年法律第七十五號第八條所定の出訴期間が經過する場合には右附則第一、二項所定の期間經過前と雖も尚右第八條を適用して訴權がなくなる旨規定したに過ぎないものと解すべきである。」と述べ、

(二)本案に對して「原告等の請求を棄却する。訴訟費用は原告等の負擔とする」との判決を求め、答辯として「原告等の主張事實中被告委員會が原告等共有の本件農地に付買收計畫を定めたのに對し原告等が順次異議の申立及び訴願をなし結局其の主張の日時訴願棄却の裁決書を受領したことは之を認めるが其の他は否認する。

本件農地は觀賞樹である植木育成の用に供せられ、原告等は訴外印藤篤郞にその肥培手入等一切を請負耕作させていたもので、尚本件土地の内同訴外人は昭和十九年五月頃から三畝歩、又亡南龜太郞(現在は同人の母ハツ)及南常太郞は昭和二十年五月から夫々六畝歩及び五畝歩を原告等から借用耕作して來たもので、本件農地は原告等の自作地とは言へない」と述べ、甲第一號證の成立を認めた。

理由

先づ被告國に對する請求に付て考察すると、昭和二十三年法律第八十一號行政事件訴訟特例法第三條は行政廳の違法な處分の取消又は變更を求める訴は他の法律に特別の定めのある場合を除いて處分をした行政廳を被告として提起しなければならぬ旨を規定して居り、同法附則第二項は同法が其の施行前に生じた事項にも適用される旨を規定して居るので、本件に付ては共同被告である被告農地委員會以外に國を被告とする必要は無いと解するのが相當であるから被告國に對する訴は不適法として却下を免れない。

次に被告農地委員會に對する訴に付ても「自作法附則第七條第三項は同被告の主張する如く同條第一、二項の規定をうけて同法施行前に處分のあつたことを知つた場合に關する規定であつて右處分を知つた日から起算して六カ月を經過すれば、右第一、二項所定の期間滿了前でも訴の提起を許さぬ趣旨と解するのが相當であつて、本件の如く右施行の後なる昭和二十三年二月十七日に處分を知つた場合に付ては單純に同法第四十七條の二第一項本文が適用されるから其の後一カ月以上を經過して提起された本訴は不適法と認むべきである。」

仍て原告兩名の被告等に對する本訴請求はその他の判斷をする迄もなく之を却下し訴訟費用の負擔に付民事訴訟法第八十九條第九十三條を適用して主文の通り判決する。

(目録省略)

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